気・血・津液とは?

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目次

1. 気・血・津液・精について

1−1、気・血・津液の概念

東洋医学では、人体を構成し生存を維持する基本要素を「気・血・津液」といい、三者が相互に関係し協調し合っています。「気・血・津液」は、飲食物の栄養分(水穀の精微)を脾胃が取り込み、一方で空気を肺が取り込み(清気)これらを合わせて生成されます。

  • 「気」生命活動の根幹となるエネルギー源で「元気・宗気・営気・衛気」の4つに分類
  • 「血」飲食物の栄養分(水穀の精微)から生成された物質
  • 「津液」:血以外の水分(唾液・涙・胃液など)

「気・血・津液は人体の生命活動を維持するための重要な物質で清気や水穀の精微などから生成されます」

2、「気」の概念・不調について

2−1、「気」の概念

 気とは「機能だけが存在し、目には言えないもの」といわれます。もともと古代中国の哲学思想から生まれた言葉で、気が変化して万物を創造し、全ての事象が生まれます。つまり、「気が人体を作り、生命活動を維持している」とされています。

人体の気は「自然の清気、水穀の精微、先天の精」のいずれかから生成されます。
  • 「自然の清気」:呼吸により大気中から取りこまれる気の事
  • 「水穀の精微」:飲食物の消化過程で生成される栄養源
  • 「先天の精」:生まれた時点で両親から受け継いだもの
また気は大きく「宗気、営気、衛気、原気」の4種類に大別できます。
  • 「宗気」「肺の呼吸作用と心の血を循環させる機能」
  • 「営気」「津液を血に変え、血と全身を循環し、臓腑や器官に栄養補給する」
  • 「衛気」「外邪の侵入から身体を保護する」
  • 「原気(元気)」「生命の原動力」旺盛だと五臓六腑の働きもよくなる

気は「生命活動のエネルギー源であると同時に、活動を推進する作用」を持っています。いわば「車のエンジンと燃料」もし気が不足すれば、燃料不足になり、さらにエンジン自体の不調が重なった状態となり、生命活動に支障が生じます。

「気」の作用は「推動、温煦、防御、固摂、気化」という5つの働きに分類されます。
  • 「推動作用」:物質を動かす作用
  • 「温煦作用」:身体を温める作用
  • 「防御作用」:外邪の侵入を防ぐ作用
  • 「固摂作用」:体液が漏出するのを防ぐ作用
  • 「気化作用」:精、気、津液、血の転化作用
2−2、「気」の不調とは

「病は気から」と言うように、いったん気の不足や変調が生じると、人体の機能に多大な影響を与えます気の変調は、気の生成不足と消耗過多、さらに機能減退などが原因となり「気虚、気陥、気滞、気逆」の4つに分けられます。

「気虚」=「気の量が不足し、機能低下が生じている状態」

気が不足するのは、脾胃の働きが低下し、消化吸収の働きが低下し、結果的に気の生成が不足することが主因となりますが、過労やストレス、大病などで気が過剰に消耗される場合もあります。気の量が不足すると、関連する臓腑、組織も変調を引き起こします。

「気陥」「気の上昇する作用が低下して起こる病態」

脾と密接な関係があり、脾気の虚弱が一番の原因とされます。
気虚の症状に加え、腰腹部が脹満する、胃下垂や腎下垂など内臓下垂を伴います。

「気滞」「気の流れが滞り、鬱積した状態の事」

気は経脈を通る営気と、経脈外を通る衛気がありますが、外邪により経脈の運行が阻害されると、衛気や営気に関連する器官に症状が現れます。「情緒の乱れ、栄養の過不足、痰湿や瘀血」なども気滞の原因となります。

「気逆」「気が逆行している状態」

推動作用により、消化物は胃から小腸へ、吸気は口から肺へと一定方向に進みますが、気逆によりこれらの働きも逆行します。特に肺、肝、胃に気逆が起きやすいです。

3、「血」の概念・不調について

3−1、「血」の概念

血は「全身の各器官に栄養を与え、滋養させる働き」を持ちます。解剖生理学でいう血液と似ていますが、赤血球や血小板といった区別はなく、生成や作用も違い、血と血液はイコールではありません。血の生成には「気」と「脾、肺、心、肝」の作用が深く関与しています。

  1. 脾の昇清作用によって上焦に運び込まれた「水穀の精気」と
  2. 肺の呼吸作用によって取り込まれた「清気」が結びついた「営気」が
  3. 「津液・原気」を取り込みます
  4. さらに血は心の熱により赤化し「血」となります。

そして「血」の作用は、

  • 心にある血を循環させるポンプ作用により全身を循環し各器官や組織に栄養を送ります
  • 肝の蔵血機能により、血の流通量は調節され、必要な部位に適度な血量がいきわたります
  • 脾の統血作用により、血は血脈の外へ漏れ出さない様になっています
  • 筋肉や骨格を生長させ、肌や髪に栄養と潤いを与える滋養作用も担っております。
  • 気とともに「精神活動」も支えています。血が十分あり、循環していることで意識が明瞭になり、精神が安定します。反対に、悩みやストレスなどを抱えていると、血が過剰に消費され、血の不足や機能低下などを生じます。
3−2、「血」の不調とは

血は飲食物から作られる水穀の精微を材料に生成されるため、食事から十分に栄養が取れなかったり、栄養を消化吸収する脾や胃に問題があると、トラブルが発生します。また、女性は月経などで血が不足しがちなので、血に関する不調に陥りやすいです。血が変調を起こすことを血病というが、以下の四種類あります。

「血虚」「血の不足、および血の機能の衰え」

関連臓腑は心で、心血が不足すると「不眠や健忘」など精神活動にも影響があります。
脾や胃の機能低下や栄養不足が主な原因となります。肝に障害があり血を貯蔵できない場合や失血が多い場合も血虚になります。表面上は赤みや艶が失せ、心と肝にも不具合が生じます。
肝血が不足すれば「爪の変形、眼精疲労や視力低下、肌の乾燥」など、経脈の血が不足すれば、「月経の不順や経血量の不足、手足のしびれ」なども起こります。

「血熱」「血の中に熱が鬱積している状態」

発熱や便秘などが生じ、さらに進むと「鼻血や皮下出血」など出血しやすい状態になります。
熱邪が血に作用し、血の循環不足で熱がこもってしまうのが原因とされます。血が熱を帯びると、血の通り道である経絡や血脈、臓腑に損傷を与えます。血行は速まり、血管を破って出血しやすくなるため「血尿や吐血、鼻血」などが生じることもあります。さらに血の熱が強ければ、体内水分を消耗し「口渇や口苦、便秘、発熱」といった症状も起こります。

「血瘀」「血が停滞したり、巡りが悪くなる状態」

停滞した血栓のような病理産物である瘀血ができます。「肝と心の循環作用の低下、寒邪や熱邪による血の停滞、脂っこい食事、喫煙、飲酒などの生活習慣」などが瘀血の原因となりえます。瘀血になると、刺痛という刺すよな痛みが同じ部位に起こります。悪化すると「脳血管障害や子宮筋腫」などの病気を引き起こすこともあります。

「血寒」「脈絡が寒凝気滞のために血行障害」

寒邪などが血脈に侵入し、血の運行が障害された症候です。手足局部の牽引痛、皮膚は紫暗色、四肢の冷え、月経の遅れ」などが症状としてあります。

4、「津液」の概念・不調について

4−1、「津液」の概念

「津液」とは、血以外のすべての体液のことで全身を潤します

  • 「津」:サラサラ・体表部を潤す・体温調節に関連
  • 「液」:粘性・体内を流れる・髄や骨を潤す

「津液」が身体を流れることで臓腑を滋潤し、骨髄や関節に入ると関節をなめらかに、また体表にあらわれると髪や肌をつややかにします。「津液」が隅々まで行き渡っているため、身体の組織は乾燥せずに潤いが保たれています。最終的には腎へ行き、老廃物を含んだ津液は尿や汗となって排泄され、きれいな津液は再利用されます。

また、汗、鼻水、涙、よだれ、つばは、津液の代謝物で五液といいます。「汗は心の液、鼻水は肺の液、涙は肝の液、よだれは脾の液、つばは腎の液」といわれ、それぞれの関連五臓の作用のもとで津液から生成されます。

4−2、「津液」の不調

「津液」の不調は、以下の3つに大別されます。

「内燥」=津液が不足した状態

内燥の場合、「肌がかさつく、髪の艶もなくなる、口乾」など、全身に渡って潤いの不足が生じます。津液の絶対量の不足と機能的な衰えを指します。津液は飲食物から水穀の精微を取り出す際に分離された水分から生成されるため、栄養不足や消化吸収を担う器官の不調により津液不足となります。

「内湿」=津液が体内で過剰になった状態

内湿は運行失調によって津液が体内にあふれ、過剰になった病態です。
体表部で津液の代謝と運行が失調すると、皮下と肌肉の間にたまり、浮腫が生じます。また津液が腹中でたまると鼓腸(腹部のみが肥大し、腹皮に青筋を残す病証)が起こり、お腹がポチャポチャ(胃内停水)した感じになります。さらに粘稠な湿が集まり固まると痰湿という病態へと進行し、「吐き気や下痢、胸苦しさ、めまいや不整脈、熱感、寝汗」などの症状を引き起こします。

5、「精」の概念・不調について

5−1、「精」の概念

「精」とは「生命活動の最も根本的なもの」で「先天の精」と「後天の精」があります。

「先天の精」父親の精と母親の精が合体した先天的なもの
「後天の精」飲食物(水穀の精微)と、自然界から得られる清気とが合体する事で生成
これらの二つが合わさったものを「腎精」と言います。
「腎精」骨や歯の発育、髄の生成、脊髄や神経、大脳機能を健全に保つなど、成長に関わる働きを担っている物質」

そのため、飲食物が不足したり、脾胃の不調によって、後天の精が生成できないと腎精が減少します。幼少時ならば「発育や二次成長の遅れ小児喘息」などの症状が生じます。高齢の場合は、「腎の機能低下、生殖機能の低下、骨粗鬆症、物忘れや頻尿」といった老化現象などが生じます。

腎精は、成長だけでなく生殖にも関与しており、腎精の変化に合わせて、人の一生を「生・長・壮・老・死」と分けて考えることもできます。

  • 「生」:誕生から7歳頃までの幼児期を指す。継続的に腎精を産生するため、歯が生え、身長や髪が伸び、めざましく成長していきます。
  • 「長」:16歳ぐらいまでの青年期を指します。女性は7年周期、男性は8年周期で生理的な変化があるとされ、女性は14歳、男性は16歳になる頃、天癸を腎精から生成します。
  • 「天癸」:生殖機能の成熟を促す物質で、女性は初潮が起こり妊娠が可能となり、男性は精液を作るとされます。
  • 「壮」:17歳から33歳頃を指し、生長がピークに達し、生命力、生殖能力などが充実した最も頑強な時期と言えます。
  • 「老」:徐々に腎精、腎気の生成が減少し、49歳になると女性は閉経を迎え、56歳には男性も生殖能力が衰えていくとされます。以降は、白髪や脱毛、物忘れ、失禁、足腰が弱るといった老化現象が生じ、死に至ります。

つまり、腎精は、先天の精と後天の精が結合したもので、生長や生殖機能を担う人間の生命力の源と言えます。

5−2、「精」の不調

腎に貯蔵されている腎精は、人間の発育、生殖、老化に関わっている最も根源的な物質であり、腎精の不足は、これらの機能の不全をもたらします。

「腎精不足」=後天の精の不足(食事をきちんと摂らない)脾胃の働きの低下などが原因

両親から受け継いだ「先天の精」が少ないと、子供の場合は発育不良や夜尿症、小児喘息といった症状が見られます。しかし、「後天の精」を充実させ、「先天の精」の不足を補うことで、成長とともに症状が消えることが多いです。大人の場合は性的機能の低下や不妊症、失禁、遺精、流産といった症状が現れます。老齢期になり、腎精がさらに減少すると、腎の働きも弱くなり、腎が担う器官である「髪、歯、耳、足腰、脳」といった部分に大きく影響が見られ、脱毛や歯が抜ける、聴力や足腰が弱る、痴呆などの症状が生じやすくなります。

腎気不固=腎気不足により、腎の固摂機能が低下すること

腎気の精気が流出すると遺精がおき、二便に対する固摂が失調すると、大便失禁や遺尿を生じます。胞宮の固摂作用が低下すると、流産や小産となります。

5−3、「精」の生成と3つの働き
  1. 先天の精が父母の精から作られます
  2. 自然の清気と水穀の精微をもとに気血津液が作られ、後天の精が生成されます
  3. 先天の精と後天の精が合わさって腎精となります
  4. 腎精は腎陽の化生作用で腎気となり、生殖機能の成熟を促す天癸を発す(①生殖機能)
  5. 腎精は髄となり、骨、脊髄、脳を満たし、全身の成長・発育を促します(②発育)
  6. 腎精は丹田に原気として貯蔵、器官組織を活動させるエネルギーに(③生命活動の維持)

6、まとめ

いかがでしたでしょうか?

今回は長くなりましたが、「気・血・津液・精」の概念・不調についてそれぞれお伝えしました。人体を構成し生存を維持する基本要素ということで、東洋医学を語る上では、もっとも大事な内容となります。これらの要素は相互に関係して協調していますので、どれをとっても大切なものです。

少し難しい内容ですので、繰り返しご参照いただいて、興味を持っていただけると幸いです。

それでは、また!

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